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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)156号 判決 1984年9月26日

原告

ザ・コカ・コーラ・カンパニー

右訴訟代理人弁護士

湯浅恭三

原増司

酒井正之

右訴訟代理人弁理士

池永光弥

被告

特許庁長官

志賀学

右指定代理人

山本邦三郎

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための付加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告は、「特許庁が昭和五八年三月九日に同庁昭和五三年審判第一四六三四号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二  被告は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

第二  原告主張の請求の原因

一  本願商標の構成及び指定商品並びに特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五〇年五月一〇日、別紙(一)のとおりの構成を有する商標(以下「本願商標」という。)につき、第二九類 茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷を指定商品として、商標登録出願(昭和五〇年商標登録出願第五四五〇一号)をし、昭和五三年二月三日付の手続補正書をもつて、指定商品を「紅茶、コーヒー、ココア、コーヒー飲料、ココア飲料」と訂正したが、同年四月二五日拒絶査定を受けたので、同年九月二二日審判の請求をしたところ、特許庁は、これを同庁同年審判第一四六三四号事件として審理した上、昭和五八年三月九日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年五月一八日原告に送達された。

(なお、前記商標登録出願は、昭和五五年一一月一二日付の出願変更届をもつて、別紙(二)の構成を有する登録第一三六三一六二号商標「ジョウジヤ」と連合する商標登録出願に変更された。)

二  審決の理由の要点

本願商標は、「GEORGIA」の欧文字を横書きして成り、その指定商品及び出願の経緯は前項記載のとおりである。

本願商標を構成する「GEORGIA」の欧文字よりは、アメリカ合衆国南東部の州を指称する「Georgia」(ジョージア)を容易に想起せしめるものであり、該州が紡績、織物などの繊維工業がアメリカ第三位の生産額を有する最重要工業であつて、これに次いで食品加工業等が盛であることは、「万有百科大事典 一〇 世界地理」(株式会社小学館発行)、「コンサイス地名辞典 外国編」(株式会社三省堂発行)等の「ジョージア」(Georgia)の項の記載においても認められるところである。しかして、該州に現在食品加工の製造、販売を業とする企業の存在することは、「外国会社年鑑一九八一年版」(日本経済新聞社発行)の「アメリカ編食品」の項の記載においても認めることができる。

したがつて、「GEORGIA」の文字を書してなる本願商標は、これをその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、前記の事情から容易に、該商品がアメリカ合衆国ジョージア州で製造された商品であることを表わしたものと認識するに止まり、自他商品の識別標識としての機能を果す文字とは認識しえないものとみるのが相当である。

してみると、本願商標は、これをその指定商品に使用するときは、該商品の産地を表わしたにすぎないものといわざるをえないから、本願商標を商標法三条一項三号に該当するものとしてその登録を拒絶した原査定は妥当であつて、これを取り消す理由はない。

なお、請求人(出願人、原告)は、請求の理由において、本願商標が、商標法三条二項に該当するものとして、登録されるものであると主張しているが、どのような商品に、どの程度使用されていたか等を具体的に確認できる資料の提出が全くなく、いかなる根拠をもつて、商標として広く認識されたものとするのか不明であるから、請求人の右主張は採用できない。

三  審決を取り消すべき事由

1  本願商標はこれを指定商品に使用するときは該商品の産地を表わしたにすぎないとした審決の判断は誤りである(取消事由第一点)。

本願商標の指定商品は、前記のとおり、紅茶、コーヒー、ココア、コーヒー飲料、ココア飲料であるところ、アメリカ合衆国のジョージア州はこれら指定商品の産地ではない。審決がその判断の根拠として挙げた文献にもジョージア州が本願指定商品の産地であることを示す記載は全くない。したがつて、本願商標が右指定商品に使用されても、取引者、需要者が本願商標をもつてジョージア州で製造された商品であることを表わしたものと認識することはない。

また、たとえ指定商品が生産販売されている土地の地名よりなる商標であつても、その地名が指定商品と特別の関係あるものとして一般に知られていないかぎり、特別顕著性があることはいうまでもない。現に、特許庁においても、アメリカ合衆国の州名であるMINESOTAミネソタ及びアラスカをはじめ地名からなる商標を数多く登録している。特に、本願商標に酷似した「ジョウジヤ」の商標が本願商標の登録出願の半年前の昭和四九年一二月一九日、指定商品を第二九類 茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、氷として、登録されている(登録第一三六三一六二号)。この事実からみても本願商標の登録を拒絶したことの誤りは明白である。

2  本願商標は使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとなつているにも拘らずこれを否定した審決の判断は誤りである(取消事由第二点)。

本願商標は、日本国内において缶入りコーヒー飲料について使用されており、その具体的数量は、昭和五〇年から五三年の間に二二五億円を超えており、その後、本願商標は、缶入りコーヒーのみならずインスタントコーヒー、ベンディングコーヒー(ベンディングマシーンより液体のコーヒーが出てくるもの)、ポストミックスブラックコーヒー(ベンディングマシーンに既に濃縮の液体のコーヒーが入つており、これを薄めたものがでてくるもの)、ジョージアココアに使用されており、その発売以来昭和五八年九月までの総販売高は、実に約二二〇〇億円に達するのである。特に缶入りコーヒーについては、原告のグループ会社の積極的な販売広告活動により発売以来年々販売高及び市場占拠率が高まつて、昭和五七年度には既にUCCコーヒーに次ぐ第二位のシェアを占めており、缶入りコーヒー全体の約五本に一本がジョージアのブランドで売られているのが現実である。

そして、缶入りコーヒーの販売量の増大のみならず、原告のグループはその積極的な販売促進活動を行つており、その一環としてジョージアブランドの販売促進物を種々開発しており、たとえばライターケース、カードホルダー、キーホルダー、ハンカチ、ボールペン、シャープペン、コインホルダー、ソーイングセット、ペンシルケース等がある。また、自動販売機で販売されるジョージアブランドの缶入り飲料の中にはこれら販売促進物が当るラッキーおたのしみ缶が含まれており、このことでジョージアブランドの缶入りコーヒー等は極めて高い人気を博している。以上のとおりであるから、本願商標の使用による特別顕著性の確立は明らかな事実である。

したがつて、本願商標が商標として広く認識されたものとすべき根拠が不明であるとする審決の判断が誤りであることは明らかである。

第三  請求の原因に対する被告の認否及び主張

原告主張の請求の原因一及び二の各事実は認める。審決を取り消されるべきものとする同三の主張は争う。

一  原告主張の取消事由第一点に対して

アメリカ合衆国ジョージア州には本願商標の指定商品に包含される「清涼飲料を含む加工食品」を製造販売する企業が存在し、食品加工業が盛である。したがつて、本願商標を指定商品に使用した場合、本願商標を付した商品に接する取引者、需要者は、該商品がアメリカ合衆国ジョージア州で製造販売された商品であることを表わしたものと認識するに止まり、自他商品識別標識としての機能を果す文字とは認識しえないものである。

二  同取消事由第二点に対して

本願商標は、アメリカ合衆国の著名な州名より成るものであるから、その指定商品について使用した結果識別力が生じたとしてその登録を得ようとするには、相当長期に亘る使用と宣伝によらなければならないことは自明であるが、そのような使用と宣伝とを認めるに足りる証拠はない。

また、使用による識別力を有するに至つた商標として認められるのは、その商標と同一の商標及びその商標を使用していた商品に関する場合のみである。しかるに、原告提出に係る証拠にみられる使用商標中には、本願商標と表示態様を異にするものがあるばかりでなく、本願商標の指定商品中には、右証拠の商標を使用した商品以外の商品が含まれているから、この点でも原告の右主張は理由がない。

第四  証拠関係<省略>

理由

一原告主張の請求の原因一の事実(本願商標の構成及び指定商品並びに特許庁における手続の経緯)及び同二の事実(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二そこで、審決取消事由の存否について検討する。

1  原告主張の審決取消事由第一点について

Georgia(ジョージア)はアメリカ合衆国東南部の州の名であるが、わが国における現今(審決時においても同様)のアメリカ合衆国に関する知識の普及度からみれば、本願商標の指定商品の取引者・需要者が本願商標を見るとき、その大多数の者は、必ずしもそれが州の名を表わすものと正確に認識はしないとしても、これを少なくともアメリカ合衆国内の地名を表わすものと認識することは明らかである。そうすると、仮に原告主張のとおり、ジョージア州において現実に本願商標の指定商品が生産されていないとしても、ジョージアという地名が右指定商品の産地を示すものではあり得ないと考えられる特段の事情のない限り、右取引者・需要者はその商品がその地で生産されているかのように思うであろうから、本願商標はその指定商品の産地を普通に表示する標章のみからなる商標であるといわなければならないところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の審決取消事由第一点の主張は採用できず、本願商標が商標法三条一項三号に該当するとした審決の判断は正当である。

2  同審決取消事由第二点について

<証拠>によれば、原告は、昭和五〇年から、その日本におけるいわゆる子会社である日本コカコーラ株式会社に本願商標を使用させ、日本全国のボトリング会社等を通じ、本願商標と同一の商標を付した缶入りコーヒーをそのまま或いは自動販売機により販売させ、また、右商標を付した自動販売機によりベンディングコーヒー(ベンディングマシーンより液体のコーヒーが出てくるもの)及びポストミックスブラックコーヒー(ベンディングマシーンに既に濃縮した液体のコーヒーが入つており、これを薄めたものが出てくるもの)を販売させ、さらに、容器に右商標を付したインスタントコーヒー及びココアを販売させ、その広告宣伝にも努めた結果、審決時には、発売以来の売上総額は一千数百億円を超え、右缶入りコーヒーの市場占有率は、二〇%以上となつており、本願商標の需要者の大部分は、本願商標が特定の業者の商品に使用される商標であると認識するに至つていたが、当時、本願商標を付した紅茶は販売されていなかつたことが認められる。

そして、右事実によれば、本願商標は、審決時に、前記指定商品中のコーヒー、ココア、コーヒー飲料については、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるようになり商標法三条二項所定の要件を充足するに至つていたものであるということができるが、少なくとも指定商品中の紅茶については(ココア飲料についてはしばらく措く。)、そのような状態になつていなかつたことが明らかである。

ところで、商標法三条二項により商標登録を受けることができるのは、商標が特定の商品につき同項所定の要件を充足するに至つた場合、その特定の商品を指定商品とするときに限るものと解するのが相当であり、また、出願商標の指定商品中の一部に登録を受けることのできないものがあれば、出願の分割ないし手続補正により登録を受けることのできない指定商品が削除されない限り、その出願は全体として登録を受けることができないものといわなければならないから、本願商標は、前認定のとおり指定商品中の紅茶について同項所定の要件を充足していない以上、指定商品全部にわたり登録を受けることができないものといわなければならない。

そうすると、本願商標は商標法三条二項の適用により登録を受けることはできないとした審決の判断は正当であつて、原告の審決取消事由第二点もまた採用できない。

三よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、一五八条二項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 楠賢二 牧野利秋)

別紙 (一)

別紙 (二)

《参考判決抄》

(昭和五八年(行ケ)第一五七号審決取消請求事件)

【事実】

一 本願商標の構成及び指定商品並びに特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五〇年五月一〇日、別紙(一)のとおりの構成を有する商標(以下「本願商標」という。)につき、第二九類 茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷を指定商品として、昭和五〇年商標登録願第五四五〇一号の商標と連合する商標として、商標登録出願(昭和五〇年商標登録願第五四五〇二号)をし、昭和五三年二月三日付の手続補正書をもつて、指定商品を「紅茶、コーヒー、ココア、コーヒー飲料、ココア飲料」と訂正したが、同年四月二五日拒絶査定を受けたので、同年九月二二日審決の請求をしたところ、特許庁は、これを同庁同年審判第一四六三五号事件として審理した上、昭和五八年三月九日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年五月一八日原告に送達された。(なお、前記商標登録出願は、昭和五五年一一月一二日付の手続補正書をもつて、連合の表示欄に別紙(二)の構成を有する登録第一三六三一六二号商標「ジョウジャ」を追加されたものである。)

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